家族から「これはうつですか、それとも認知症ですか」と問われることがある。

そもそも認知症は物忘れを中心とする知的機能の後天的な低下であり、うつは抑うつ気分や意欲低下をメインとする気分の病気で、本質的な病状が異なっているわけで、区別はむずかしくないはずである。しかし、これがそう簡単ではないことがあるのである。例えば、次のようなことがある。

1 認知症の経過中に、認知症の部分症状としてうつ状態があらわれてくる場合がある。

2 うつ病で発症した後に、認知症があらわれてくる場合がある。

3 うつ病のなかで思考抑制や集中力困難がつよい人の場合、物忘れに似た状態となり、認知症に似てくる人がいる。

4 認知症とわからずにうつと思って来られる人やうつとわからずに認知症ではないかと思って来られる人がいる。

5 不眠や不安症状を主訴に来られた方が認知症であったり、場合によってはうつ病であったりすることがある。

従って基本に立ち返り、起始・経過・現在症・合併症などを詳しく聴取し、認知症が疑われる場合は簡易検査{改訂長谷川など}をおこなってみることが大切である。

 

湘南こころのクリニック