精神病理学と精神病理理論
私が研修医となり大学に籍があった5年ぐらいの間であるが、次のようなことをいつも考えていた。それは{精神現象のすべてを統一的に理解する方法を作り上げたい}というものだった。そして29歳の時、ぱっとその糸口になるものが閃いた。それは岡崎市の郊外にある精神病院の当直をしているときだった。走馬燈のようにさまざまな記憶が脳裏を駆け巡り、ぱっと理解できたのである。それは不思議な体験だった。そして次の2つの前提を認めることで、ほとんどの精神現象が説明可能になるものと思えた。
1 精神構造を力学モデルと等価であるとみなし、複雑なシステムを単一なあるいは2~3のわかりやすい力学系に近似させることにした。簡略化した力学モデルとは次のようなものである。 {略}
2 精神機能はいくつかの系列に分けられるが、その構造は1の構造に一致すると考え、このような精神機能の系列として感情系・欲動系・不安系・意欲系・思考系・知覚刺激系の6つをあげた。そして各系に応じて、系に特有の精神症状が現れ、力学モデル中のXとYとでは精神症状が色合いを異にして表出されるものとした。
1および2から演繹的に33の命題が導き出された。 {略}
この内容は学会で発表し、専門誌に投稿した。評価は{面白い}というものであったが、アクセプトされなかった。
多分、荒唐無稽で、信憑性にかけるということだったのであろう。
それから神奈川県の副院長として教授より推薦され、赴任することになった。
この理論は私の記憶のなかにそのまま埋もれている。