ジリオラ・チンクエッティとの夕べ
私が小学校5年か6年の時、サンレモ音楽祭がテレビで放映されていた。そこでひときわ輝いていたのがジリオラ・チンクエッティだった。当時彼女は16か17歳だったと思う。私は魅了され、将来結婚したいと淡い恋心を抱いたものである。それは私の懐かしい思い出である。
そのジリオラ・チンクエッティが今年、日本でコンサートを開くと知って、早速チケットを購入した。会場は川崎駅近くのクラブチッタという所だった。クラブのある周辺は南欧調の街並みでカンツォーネには似つかわしい風情を醸し出していた。
会場は満席で、千人ぐらいのファンがあつまっていた。そろそろ開幕するかと期待を膨らませていた時、通路から大きな拍手がわきあがった。振り返ると数人の着飾った女性が席に着くところだった。周りの人から聞いた話では島田順子さんとジュディ・オングさんということだった。チンクエッティの歌を聴きたいと、ここまで来たんだなと感じ入った。
いよいよ開幕し、彼女があらわれた。ああ~正直なところ、年をとってしまったなと思わずにはいられなかった。少女時代の面影はほとんど見てとれなかったからだ。しかし彼女の歌声は当時と全く変わっていなかった。そして30分の休憩を挟んで2時間を歌いきった。
アンコールに応じてくれるかどうか心配したが、素敵な笑顔で登場し{夢みる想い}をたっぷりとした感じで歌いだした。しばらくして彼女がマイクを私たちの方に向けると会場にいたほとんどの人がこの曲をイタリア語で歌いはじめ、美しいハーモニーとなって響き渡った。私は感激し、小学校の時に訳もわからずに覚えたイタリア語の歌詞を、今も覚えていて口ずさんでいた。そして時代の移りゆきを感じながら、また昔の自分を思い出しながら、何故か涙が止まらなかった。
本当に素晴らしい演奏会だったと思う。頬に伝わる涙は会場を出ても続いていた。