ケタミンはうつ病治療の救世主となるか
今年の精神神経学会は神戸で開かれた。あいにく外来診療が混みあう時期と重なり、1日だけ出席することになった。
それでもエポックメイキングな講演会を聞くことができた。何かというとケタミンである。
ケタミンは麻酔薬であるが、これがうつ病の症状改善に画期的な効果を示すと言うのだ。ちょうど統合失調症に対してクロルプロマジンが用いられたときと同程度の出来事ではないかと演者は話していた。どちらも麻酔に使用されていた薬ということでは興味深い。現在、うつ病における薬物療法はSSRI・SNRIなどが主流であるが、効果発現までに数週間以上かかり、しかも改善率は70%程度である。これに対してケタミンの静注では効果が数時間で現れ、1週間ほどの効果の持続が示されている。特に抑うつ作用や自殺願望の改善率は顕著であるとも言われている。さらに治療抵抗性のうつ病にも高い治療効果を示すとのことだ。
米国ではすでに鼻腔内投与のケタミンが保険適用外で100以上の施設で使われているそうだ。さすがアメリカは自由で、何事にも積極的なお国柄である。規則や規制で縛られてしまう日本とは全く違う。
ところで喜ばしいことに、日本でも今後、ケタミンの治験が始まるという。しかも日本の研究者がSーケタミン{アメリカで開発中}よりRーケタミンの方がSーより効果が強く、副作用が少ないことを実証しており、今後の開発競争においても目が離せなくなっている。
しかし、臨床に使われるまでには、ケタミンの依存性・精神病惹起作用{一過性}などいくつかの問題点があり、数年はかかるのではないだろうか。