先日 患者さんから「生きている意味がわからないんです?」と告げられ、私はすかさず「生きているっていうこと自身に意味があるんじゃないかな」と答えた。私にしては珍しく気の利いた答えができたと内心ほっとした。このとき私の脳裏には、災害や事故にあって行方が分からなくなっている人に親や知人が「とにかく、せめて生きていてくれたらと思っています」と話す光景が浮かんだのである。「無事で生きている」ということは家族や知人からの願いである。それは生きている意味に繋がっている。

以前「生きている意味は生物学的には子孫を残すこと」と述べたことがあるが、人間にはそれ以外にも意味がある事柄があると考えている。それは子孫に教えを残すことであり、ひいては子孫を育て、人類の繁栄に導くことにあるのではないかと思っている。

人生とは何かということを哲学的に考えると、訳がわからなくなってしまう。だから、純粋に「生きていることって、それ自体が幸せなことなんだ」と思うようにした方がいいんじゃないかなあ。戦争や飢餓でいつ死ぬかわからない人は今でも地球上に五万といる。平和で暮らせる、戦争や飢餓で死ななくてもいいということは実際、幸せなことなのである。

湘南こころのクリニック